誰でも、いよいよご自身の会社・企業を倒産・破産させると考えた場合、ご自身に計画倒産であるとの誹謗中傷が投げかけられたり、違法な行為をしたに違いないとのあらぬ疑いを掛けられたりすることは避けたいところでしょう。
この記事では、倒産手続において計画倒産であると疑われたり指摘されたりすることを避けるために、計画倒産についてご説明し、正しい破産手続の進め方をお伝えします。
目次
計画倒産とは
「計画倒産」とは、一般的に、悪意を持って会社の倒産を計画して財産を隠匿したり、特定の債権者にのみ弁済したりして、会社や債権者に損害を与える行為を指します。法律上に「計画倒産」の明確な定義はありませんが、破産手続を悪用した犯罪行為と見なされる類型の行為が、以下のとおり規制されています。
該当する主な罪
一般に計画倒産と呼ばれる行為については、以下のような罪に問われる可能性がありますので、覚えておいて損はないでしょう。
詐欺破産罪
まず、詐欺破産罪に注意が必要です。詐欺破産罪とは、破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、財産を隠したり、不正に債務を負担したりする行為に適用される罪です(破産法265条)。刑法ではなく、破産法で罰則が定められており、十年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はこれら両方の罪が科されます。具体的には、以下のような行為が該当するおそれがあります。
- 会社の財産を隠匿・損壊する
- 会社の財産譲渡・債務負担を仮装して財産を逃がす
- 会社財産を改変してその価格を減損する
- 会社の財産を債権者の不利益になるように処分する
これらの行為のうち、特に会社財産を隠匿するような事例が、典型的な詐欺破産行為・計画倒産行為と呼ばれるものとなります。
特別背任罪
次に、特別背任罪にも注意しましょう。特別背任罪とは、会社の取締役や監査役などの役員が、自己や第三者の利益を図る目的・会社に損害を与える目的で任務に背く行為を行い、会社に損害を与える場合に成立する罪です(会社法960条)。このような行為をした場合には、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はこれら両方が科されます。
計画倒産として、倒産直前に会社財産を不当に処分したり、自分のものとしたりして会社に損害を与えた場合に適用されることがあります。
横領罪・業務上横領罪
また、横領罪・業務上横領罪にも留意しなければなりません。
横領罪は、他人の財物を不法に自己のものにすることをいいます。業務上横領罪は、業務として他人の財物を管理している者が、その財物を横領した場合に成立する罪で、より重い刑罰が科せられます(刑法253条)。会社財産を経営者が個人的な用途で使い込んだ場合などに適用されます。
業務上横領罪に当たる行為をした場合には、10年以下の拘禁刑が科されることとなります。私的な会社財産の流用も、まさに「計画倒産」の典型的行為といえるでしょう。
計画倒産を疑われる行動
このような計画倒産を疑われないように、以下の行動は避けるようにしましょう。以下のような行動は、破産手続において計画倒産を疑われる可能性のある行動になります。
特定の債権者にだけ優先的に支払いをしている
特定の債権者にのみ支払をすることは、「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼ばれ、破産法で禁止されています(破産法162条等)。倒産手続では、債権者は平等に扱われるべきとの強い理念がありますし、一般社会においても同様の考えが常識とされるでしょう。このような中で特定の債権者だけを優遇すると、他の債権者への損害につながることと指摘され、計画倒産を疑われることとなります。
特に、会社経営者の関係者の報酬を支払っているとか、経営者の家族にだけ借入金の返済をしているといった不当な行為が指摘されることのないよう、注意しましょう。
家族や知人名義に資産を移している
また、破産手続開始前に、会社の財産を家族や知人名義に移す行為は、財産隠匿と見なされます。これは、債権者への分配を減らすことを目的とした不正行為であり、詐欺破産罪に問われる可能性があります。
まさしく計画倒産として後ろ指をさされる行動ですから、このような行動は厳に慎みましょう。場合によっては、破産手続の中で、家族や知人宛てに当該財産の返還請求・返還訴訟が提起されることもあります。
大量の商品や在庫を格安で売却している
破産手続直前に、会社の在庫を不当に安い価格で売却することも、財産隠匿に類する行動とみなされます。これは、適正な価格で売却すれば得られたであろう財産を、意図的に減少させる行為だからです。このような行動は、ダンピングとも呼ばれます。
どうしても当面の資金繰りに窮し、商品・在庫品を安くでも売ってしまいたいと考える方が出てきてしまいます。しかしながら、このような行動は、会社財産の価値を下げ、ひいては債権者の利益を害することとなりますので、行ってはならない行動です。
破産予定を知りつつ新たな借入や契約をする
破産する予定があることを知りながら、新たな借入や売買契約を結ぶことは、相手方に対する詐欺行為と見なされます。これは、最初から返済する意思がない、または契約を履行する意思がないと判断されるためです。
このような行為も、報道されて問題視されるような計画倒産の行動例といえます。直前まで新たな契約をして資金を集めるものの、そのような行動を取る会社では、当該資金がどこに行ったか分からなくなることが多いです。会社経営者が詐欺罪等で告訴・告発されて逮捕されるようなケースもありますので、李下に冠を正さずで、疑わしい行動自体を避けるようにしましょう。
計画倒産とみなされないために
計画倒産とみなされず、適正な破産手続きを進めるためには、以下の点に注意することが重要です。
弁護士に相談
倒産・破産を検討し始めた段階で、できるだけ早く弁護士に相談することが最も重要です。自己判断で行動を起こすと、知らず知らずのうちに法的に問題のある行為をしてしまい、後から詐欺破産罪などの罪に問われるリスクがあります。
弁護士は、会社の財務状況や債権者、資産の状況を総合的に把握した上で、破産手続の全体像を明確に示してくれます。各種業態・業界の実情を踏まえながら、どのような書類が必要か、いつまでに何をすべきか、どのような行動が偏頗弁済や財産隠匿とみなされるかを具体的にアドバイスできますから、違法な行為を未然に防ぐことができます。また、債権者への対応や従業員への説明についても、専門的な視点からサポートを受けることができ、経営者の精神的な負担も軽減されます。
法人が倒産・破産をする場合、事実上、必ず弁護士に依頼する必要があります。そうであれば、できるだけ早期に弁護士に相談する方が得策でしょう。破産することが確定している必要はありませんから、早い時期に弁護士に相談するようにしましょう。
特定の債権者だけに支払わない
また、会社の資金繰りが厳しくなり、一部の債権者への支払いが滞り始めた場合でも、特定の債権者にだけ優先して支払いをすることは「偏頗弁済」として破産手続上、厳しく問題視されますから、避けましょう。
偏頗弁済は、すべての債権者を平等に扱うという破産法の基本原則に反する行為です。特定の債権者(特に、経営者の家族や知人、主要な取引先など)にのみ支払を行った場合、その行為は否認され、破産管財人によって取り消される可能性があります。かえって破産手続において返金を求められることとなり、相手方に迷惑を掛ける自体にもなりかねません。
最悪の場合、破産手続が開始されない、破産手続開始申立棄却の原因となったり、詐欺破産罪の構成要件とみなされたりすることもあります。支払が必要な場合は、自己判断せず、必ず弁護士に相談し、適切な対応を検討しましょう。
資産の移動は要相談
また、会社の資産を移動する場合には、事前に弁護士に相談しましょう。
破産を意識し始めると、会社の財産を少しでも残したいと考える経営者も少なくありません。しかし、会社の財産を処分したり、名義を変更したりすることは、財産隠匿とみなされる可能性が高い危険な行為です。ましてや自己名義に移転することなど、もってのほかです。
例えば、会社の不動産や車両、高価な設備などを破産直前に安価で売却したり、家族や知人名義に変更したりする行為は、詐欺破産罪に直結する可能性があります。これらの行為は、債権者への分配原資となる会社財産を意図的に減らすことを目的とした不正行為と見なされる可能性が高いのです。
会社の財産に何らかの変動が生じる可能性がある場合は、その都度、必ず事前に弁護士に相談し、法的観点から問題がないかを確認することが不可欠です。正当な理由に基づく取引であるか、適切な価格での売却であるかなど、法律の専門家のアドバイスを受けることで、後から不正を疑われるリスクを回避できます。
まとめ
以上のとおり、計画倒産と、正しい倒産手続についてご説明しました。
計画倒産は、破産手続を悪用した犯罪行為であり、詐欺破産罪や特別背任罪、横領罪などの罪に問われる可能性があります。経営者としては、適正な破産手続を進めるために、早めに弁護士に相談し、違法な行為を避けることが最も重要です。また、特定の債権者への優遇、財産隠匿、不当な資産処分など、計画倒産を疑われる行動は絶対に避けましょう。
当事務所では、法人の倒産・破産事件を多く扱っております。様々な業界の倒産事件を担当しておりますので、あなたのお悩みにも対応できるはずです。もちろん当事務所では、倒産・破産をすることを決定する前のご相談にも応じています。ぜひ、計画倒産とならないように正しい倒産手続を進める場合には、当事務所までご相談ください。