なぜ私が倒産分野に情熱を注ぐのか

 今から20年以上も前のことですが、私は弁護士になる前に東京の法律事務所でパラリーガル(弁護士業務の補助を行う職責を担う者)として3年半ほど勤務しておりました。法律上、弁護士にしかできない職域が決められており、パラリーガルはあくまで弁護士業務の補助を超えることはできないため、やれることは限られておりましたが、弁護士の隣で依頼者と接点を持つことこそ多い立場にありました。

 私がそのようなパラリーガルとして従事していた法律事務所に、東京・中野で出版・編集制作会社を営んでいた社長が相談に来られました。

企業法務部

弁護士 大武 英司

「会社を倒産させたい」

という相談内容でした。悲壮感を漂わせながらご相談に来られた社長でしたが、その後の度重なる打ち合わせや裁判所への出頭を経て、いざ破産手続が終結したときには何か吹っ切れた様な表情に変わられていたことを今でも思い出します。

 その破産手続が終結して半年ほど経過した頃だったでしょうか、同社長から「本を書いたので見て欲しい」ということで一冊の本を頂きました。「倒産社長の告白」(2003、草思社)と題する本です。私はこの倒産案件の一部始終を認識しているので、あっという間に読み進めることができましたが、何よりも驚いたのが、自分が何ヶ所にも渡って実名で登場してきたことでした。

 私は、たかだかパラリーガルとして事実上のお手伝いをしたに過ぎないにもかかわらず、社長と私とのやりとりが事細かに克明に描かれていたことが光栄でした(弁護士となった今となっては自分の未熟さに閉口しますが…)。

 そして、それ以上に気付かされたのは、経営者が倒産を決断する瞬間というのは、人生においてそう何度もあることではなく、法律事務所に訪問するだけでも、問い合わせをするだけでも、更には裁判所に足を運ぶだけでも、その1つ1つが「非日常」であり、神経をすり減らすことであるという点でした。

 弁護士にとっては、あまたある倒産案件のうちの1つに過ぎないかもしれませんが、依頼者(経営者)は断腸の思いでいることに自覚的でなければならないとも考えました。

 私が倒産分野に情熱を注ぐ理由の源泉が、この20年以上も前のご依頼者にあるともいえます。倒産手続は会社あるいは個人が資金繰りにもがき苦しむ状況から再起に向けて進んでいく過程であり、人生の一縮図を見るようでもあります。そこに倒産分野の興味深さがあります。

債務整理は会社・経営者・従業員を救う

  • 会社の資金繰りが苦しく、気づけば常にそのことを考えている
  • 売上を上げるための施策ではなく、目の前の資金繰り対応にかける時間が圧倒的に多くなっている
  • 資金繰り対策を行っても、却って返済に窮するようになった
  • 自分の悩みが会社全体に伝播し、会社の雰囲気や従業員のモチベーションにも影響している

 これらは、会社の資金繰りに窮するようになってから一定の期間が経過したご相談者からよくお聞きする声です。

 「会社の資金繰りに窮するようになってから一定の期間が経過」してからご相談に来られるのも無理はございません。むしろ会社の経営者が「何とかキャッシュフローを改善しよう」「今は苦しいがこの局面を乗り切れば資金繰りも良くなる」「顧客や取引先に迷惑はかけられない」等とお考えになり、会社の存続のために戦ってこられた証とすら言えます。

 しかし、上記のようなことをずっと考え続けなければならず、肉体的にも精神的にも疲弊してしまっては、再起を図ることも難しくなります。

 債務整理や破産・民事再生をはじめとする法的手続はその再起の機会を付与するものです。実際に、破産法は「経済生活の再生の機会の確保を図る」、民事再生法は「債務者の事業又は経済生活の再生を図る」ことをそれぞれ目的とする旨明確に定めています。つまり、法律は、債権者が有する債権の満足を犠牲にしてでも破産者の事業や生活の再建をする機会を付与することを優先しているのです。

 「債務整理」や「破産」といった言葉はネガティブなワードとして認識されがちですが、これらがなければ、ひとたび債務超過に陥った会社や個人は、新たな事業への挑戦や生活の再建が極めて困難となります。これらは新たな事業や生活をスタートさせるために設けられた制度であり、全てをネガティブに捉えるべきではありません。現在の状況を脱却するために与えられた一手段であり、債務整理や破産は経営者ひいてはそこに雇用される労働者を救うのです。

債務整理後の依頼者の姿

 私は債務負担、資金繰りに振り回される日々から解放され、再起の途が開かれる依頼者の姿を沢山見てまいりました。先ほどご紹介しました出版社社長もそのお一人でした。同社長は、資金繰りに窮迫し破産手続が終結するまでのご自身の姿を、改めて冷静に振り返られ、「倒産社長の告白」という書籍に残されました。同社長がいつこの書籍の執筆を開始されたのかを私は与り知りませんが、どれだけ早くても破産手続の申立てを行い、同手続の土俵に乗って以降のことであろうと思います。

 手続は終結するまでに一定の時間こそ要しますが、どの依頼者の方も弁護士が介入し、債務整理や破産など一定の手続に入ると平静を取り戻されることが多いです。そして、全ての手続が終了したときには、すっきりとした表情をされる依頼者の姿を数多く見てきました。相談をいただいた時には見ることがなかった笑顔もあります。

債務整理の難しさと遣り甲斐

 債務整理はただ単に一方的に債務を圧縮し、あるいは免除を受けるという簡単なものではございません。例えば、破産手続の場合を考えると、債権者平等という原則のもと処理しなければならず、一部の債権者だけに弁済をすることが許されません。また、同じく「債権者」といっても、株主、従業員、取引先、金融機関、顧客、家主等、実に多くの立場の関係者が関与します。これら関係者の有する債権には、その種類によって優先される債権と劣後する債権が存在します。また、担保を有する債権者がいる場合には、一定の手続を除き担保を実行することも認められています。

 債権者だけではありません。会社が破産する場合、その会社が売掛金債権を有している先(債務者)も存在します。また、経営者以外に会社の保証人となっている方がいることもあるでしょう。

 つまり、会社の債務整理や法的手続を履践する場合、種々の利害関係人が存在することからそれらの利害関係を適切に調整しなければならない点に難しさがあります。これら不特定多数の利害関係者の利害を法律に則って調整しつつ、破産を申請した者の経済生活の再生・再建を図るのが破産手続であります。債務整理や民事再生手続も同様です。

 先に述べましたが、これらの手続を通じて、紆余曲折しつつも再起を図る人生の縮図を見るような点が債務整理や倒産手続の遣り甲斐なのです。

お客様へのお約束

 ここまでつらつらと個人的な心情を書き連ねましたが、要するに私はこの分野が好きなのです。債務でお困りになっている経営者の方に対し、生活や事業を再生させる手伝いをすることに遣り甲斐を感じてやまないのです。

 資金繰りに頭を悩ませている経営者の方、債務の不安で夜も眠れないという社長様、騙されたと思って一度当事務所にご相談下さい。皆様のお力になることをお約束します。