原則的に法人が破産しても代表者は債務を負わない

 借入金の返済が不可能な状態となり経営者の方が会社(法人)の清算を考えた場合、法人を破産させた後、自分個人の財産はどうなるのだろうと心配になるのが通常です。 

 法人破産を何度も経験する経営者の方は多くありません。そのため、法人破産を行った場合、代表者自身の状況がどう変わるのかについて不安を感じるのが常です。 

 法律的にいえば、法人を破産させたとしても代表者個人には何の責任も及びません。法人の財産と法人代表者個人の財産は別物だからです。

 しかし、これはあくまでも原則論であり、法人が破産した場合に代表者個人の財産でもってその責任を果たさなければならない2つの例外があります。以下では、この例外を順に解説します。

【例外1】代表者が法人を連帯保証している場合

 最初に挙げるべき例外は、代表者が法人を連帯保証している場合です。これは、法人が負っている負債が金融機関からの借入金である場合を念頭に置いています。通常、金融機関が法人に融資を行う場合には、法人代表者がその債務を連帯保証すること、つまり代表者が連帯保証人となることが求められます。これを断れば金融機関からの融資を受けることはできません。

 この場合、法人代表者は、法人破産と無関係ではいられなくなります。法人代表者自身が負っている連帯保証債務の履行を求められるからです。この場合、法人代表者は、自らの個人資産を投げ打って連帯保証債務を弁済しなければならなくなります。個人財産すべてを投げ打っても弁済できない場合は、いわゆる「返済不能」の状態に当たりますので、法人だけでなく法人代表者も自己破産を行うことで債務を整理することになります。

【例外2】代表者の悪意または重過失による任務懈怠で第三者が損害を被った場合

 例外の2つ目は、代表者の悪意または重過失による任務懈怠で第三者が損害を被った場合です。

任務懈怠というのは、代表者による法人への忠実義務違反・善管注意義務に違反することを指します。「善管注意義務」という言葉を初めて聞かれる方もいるかと思います。善管注意義務とは「善良な管理者の注意義務」の略で、受託者が事務等の管理を行う場合に、当該職業又は地位にある人として通常要求される程度の注意義務を指します。民法第644条には「受任者は委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって事務を処理すべきである」旨が規定されていて、これが善管注意義務の法的根拠となります(法人代表者は、経営について法人の委任を受けた受任者を意味します。)。法人代表者が悪意(わざと)または重過失(ほとんど悪意と同視すべきほど重大な過失)による任務懈怠で第三者に損害を与えた場合、第三者は、法人だけでなく法人代表者個人に対しても賠償を請求することができます。その裏返しとして、法人代表者はその第三者に対して損害を賠償すべき義務(賠償債務)を負います(会社法429条、一般社団法人または一般財団法人に関する法律117条等)。

したがって、法人代表者の悪意または重過失による任務懈怠によって第三者が損害を被った場合、法人だけでなく法人代表者もその第三者に対して債務を負います。この法人代表者の債務は代表者個人としての債務ですので、仮に法人が破産したとしても残存します。

例えば、法人代表者が食品の産地を偽装して販売店や料理店に卸し、それが後に露呈して販売店・料理店が損害を被った場合、法人だけでなく法人代表者個人も債務を背負い、この個人債務はたとえ法人が破産したとしても消えることはありません。

代表者個人の債務整理の手続と効果、残せる財産 

代表者個人が債務を負う場合はどうすればよいか

 では、上記2つの例外に当てはまり、代表者個人としても多額の債務を背負ってしまう場合、どうすればよいのでしょうか。

 代表者の個人資産で債務を弁済できるのであれば、そうすることで問題は解決します。しかし、そのようなケースは多くはなく、実際には、法人破産に伴って代表者自身も何らかの債務整理を行わなければならないことがほとんどです。

債務整理の種類-任意整理と法的整理-

 債務整理の方法は、大きく任意整理と法的整理と呼ばれるものに分かれます。「任意整理」というのは、裁判所を関与させず直接債権者と交渉することで返済のリスケジュールや利息のカットを内容とする合意を取り付けて返済不能の状態からの脱出を試みるものです。一方、「法的整理」とは、裁判所を関与させる法定の手続によって債権者の平等を図りながら行う債務整理を意味します。典型的なのは「破産」でこれを行えば債務全額について返済義務から解放されます(個人破産では債務を免責され、法人破産では清算結了による法人の消滅により結果的に債務から解放されます。)。法的整理には、破産の他に「民事再生」というものがあります。民事再生は、法人の事業を存続させることを前提とした債務整理です。債務の圧縮を前提とした再生計画を債権者が受け入れて裁判所の認可決定を受けることで、法人の債務が減免され、圧縮された債務を決められた期間に支払えばよいことになります。

代表者個人の破産の手続

 ここでは、件数として多い「破産」についてその「手続」や「効果」の概略を説明します。破産は、裁判所に対して申立てを行い、裁判所が破産手続の開始決定を下すことで始まります。破産手続開始決定後の流れには2通りのルートがあります。

「同時廃止事件」と呼ばれるものと「管財事件」と呼ばれるものの2つです。同時廃止事件の「同時」とは破産手続開始決定と同時という意味です。同時廃止事件の「廃止」とは、手続が終了するという意味です。つまり、破産手続を開始と同時に終了させる類型を同時廃止事件と呼びます。裁判所は、同時廃止の決定を行った後、破産者を免責するか否か(債務を帳消しにするかどうか)を判断しますが、ほとんどの場合で免責許可決定が出ます。

 他方、「管財事件」の場合、破産手続開始決定の後(通常は同時)に破産管財人が選任されます。管財事件には、目的によって清算型、免責調査型、資産調査型などいくつかのタイプがありますが、破産管財人は破産手続の中でその職務を遂行し、必要な報告を債権者集会の中で裁判所と債権者に対して行います。破産管財人の業務が終了すると破産手続廃止(終了)決定が下され、その後、裁判所による破産者の免責判断がされます。

 なお、破産手続では、債権者に分配できる財産が残っている場合は、配当手続を通じて債権者に分配されますが、かといって全ての財産が配当に回されるわけではありません。99万円以下の資産は、「自由財産」といって、破産者の生活再建に必要な資産として手元に残しておくことができます。この99万円の枠内の資産構成は自由です。現金、預金、生命保険、車、不動産などこの金額の枠内であれば残せる資産の構成は自由です。なお、資産が99万円を超える場合、その99万円を超える部分については破産財団に組み入れられ、破産者の手元には戻ってこないのが原則です。

 代表者個人の破産は、通常、法人の破産と同時に裁判所に申し立てられ、その後の手続も同時に進められます。別々に行うよりも手続が簡略化され、裁判所への予納金(将来の破産管財人の報酬の原資となります。)も低額で済むためです。

代表者が破産する場合の弁護士費用と予納金

  法人と代表者個人をセットで破産する際の弁護士費用は、以下をご覧ください。

費用についてはこちら>>

 裁判所に予納する金銭(予納金)の額は、破産の申立書を裁判所に提出した後に裁判所が定めて通知してきます。予納金の額はケースによってまちまちですが、法人と代表者個人をともに破産申立てする場合、少なくとも30万円は求められるのが通常です。

破産後に再度起業することは可能か

 法人代表者の中には、破産後に再度の起業を希望される方がいます。では、一度破産した法人代表者が再度法人を設立したり、その代表者になることは可能なのでしょうか。

 結論からいえば、破産しても再度起業することは可能です。会社法上の取締役の欠格事由にも「破産者」という言葉はありませんので、会社を興して取締役になることも可能です。

 もっとも、破産した場合、信用情報機関に破産歴が記録されるため、破産した時から当面の間、金融機関からの借り入れを行うことは事実上難しくなります。そのため、金融機関の融資を当てにせず、手元資金や親族からの贈与、第三者からの出資といった金融機関に頼らない方法で運転資金を調達する必要があります。

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まとめ

 ここでは、法人破産する場合に法人代表者がどのような状況になるか、と言う切り口で説明してみました。

 法律論の原則は、法人破産によって代表者が法人債務を肩代わりする必要はないということになっています。しかし、現実問題、法人が破産する原因として最も多いのが金融機関からの融資の返済不能であり、この場合、法人代表者が連帯保証人となっているため結局法人の破産に伴って代表者個人も破産せざるを得なくなることが多いです。

 破産は準備がとても大事ですので、是非早めに当事務所にご相談いただければ幸いです。早めにご相談いただければ、そもそも破産という結論を避けることができるケースも少なくありません。

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