会社が破産する場合、従業員に対してどのような影響が及ぶのか、という問題は、良識ある経営者であれば誰しも気になるテーマだと思います。ここでは、そうした会社破産と従業員の関係性について解説いたします。
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会社破産によって従業員は解雇される。
結論から言えば、会社が破産の申立てを行った場合、従業員は解雇されることになります。正社員だけでなく、パート、アルバイトなど名称や役職に関わらず全ての従業員が解雇の対象です。
破産手続は、破産者の財産を債権者に対して公平に分配する手続です。破産は、経営が悪化し、収支が赤字となっている場合に行われるのが通常です。経営を続行すればするほど収支が悪化し、債権者の配当原資となる資産が目減りすることになるため、会社財産の管理処分権を持つ破産管財人としては、速やかな事業停止と支出の削減が求められるため、従業員は速やかに解雇されるのが通常です。
こうしたことから、実際には、破産の事実を従業員に告げないまま破産手続開始決定に至るというケースは稀です。多くのケースでは、破産手続の申立て前に従業員に破産予定を告げて解雇の手続を行っています。
破産を従業員に説明するタイミング
経営者が会社の破産を決意した場合、どこかの時点で従業員全員に破産することを説明する必要があります。
規模の小さな会社の場合、破産を決意した直後から従業員に対して破産の方針を伝えることもあります。一方、規模の大きな会社の場合、取引先も多数となり、事前に破産の方針が広まれば、債権者からの取り立てや消費者からの問い合わせが殺到し、大きな混乱を招くことになりかねません。そのため、実務上、従業員に対しては、事業停止のタイミングに従業員説明会を実施し、一斉に破産申立をする旨を伝える方法が多く用いられています。
従業員説明会のポイント
では、その従業員説明会では、どのような点を伝えればよろしいのでしょうか。
従業員説明会の趣旨は、単に破産の事実を伝えるだけではありません。今後のスケジュールや給料や手当の取り扱い、雇用保険などの社会保険に関する扱いを説明し、従業員の不安を緩和するという点が重要です。
そうした趣旨から、一般に従業員説明会では、以下のような点に触れることが多いです。
- 破産の申立てを行うこと
- 破産を決断した経緯
- 従業員のこれまでの働きに対する感謝と慰労の言葉
- 今後の出勤の要否や解雇の通知
- 給料、退職金、解雇予告手当の見通し
- 給料などの未払いが発生する場合には未払賃金立替払制度の説明
- 雇用保険や社会保険の手続
- 会社が管理する物の返還及び私物の整理についての説明
従業員説明会では、無用な混乱を防ぐため誠実な説明が求められます。会社破産の場合は弁護士が代理して手続を行うことが通常ですので、代理人弁護士が従業員説明会にも同席し、法的な説明などを担当することが多いと思います。専門家が同席するだけで、経営者の多くは安心感が得られると思います。
解雇の具体的な手続
解雇とは、使用者が、従業員との雇用契約を一方的に解約する法律行為のことです。解雇は、使用者から従業員に対する意思表示によって行います。意思表示の方法は、口頭によっても可能ですが、口頭だけでは証拠に残らないため、通常は解雇通知書と呼ばれる書面を作成し、これを従業員に交付することで意思表示をします。
従業員を解雇する場合、労働法により、少なくとも30日前にはその予告を行わなければなりません。30日前までに予告を行わないまま解雇する場合には、解雇予告手当の支払義務が使用者側に発生します。解雇予告手当の金額は、平均賃金の30日分以上である必要があります(労働基準法20条)。
未払い給料などの取扱い
破産の申立て時点で、従業員の給料や解雇予告手当に未払いがある場合、債権者一覧表に従業員の氏名・住所を記載し、「労働債権」として申告を行うことになります。従業員の給料や退職金、解雇予告手当などの労働債権は、「財団債権」または「優先的破産債権」として扱われ、破産手続上、他の一般の破産債権よりも破産手続きの中で優先的な扱いがなされています。具体的には、未払給料のうち、破産手続の開始前3ヶ月間分は「財団債権」と呼ばれ、破産手続の中では最優先で支払われる債権になります。その他の未払給料(破産手続開始3ヶ月前よりも以前の賃金)や解雇予告手当も、「優先的破産債権」となり、一般の破産債権よりも優先されます。退職金が発生している従業員については、退職金のうち、退職前3ヶ月間の給料の合計額に相当する額は財団債権となり、それ以外の部分は優先的破産債権となります。
これにより、一定の破産財団(破産法人に残っている財産)が形成できた場合には、破産手続において、給料や退職金などの労働債権は一般の破産債権よりも優先的に支払われることになります。
他方で、破産財団が十分に形成できない場合(破産法人に財産が残っていない場合)には、労働債権であっても、支払われないままに破産手続きが終わってしまうことになります。
このように破産財団が確保できず、破産手続きの中で労働債権が支払われない場合であっても利用できる制度として、次の「未払賃金立替払制度」があり、この制度を利用すれば、従業員は、未払いの給料のうち一定額の支払を受けることができるようになります。
未払賃金立替払制度
「未払賃金立替払制度」とは、会社が従業員への給料などを未払いのまま破産した場合に、従業員を救済するため、独立行政法人労働者健康安全機構が未払い賃金の一部を立替払いする制度です。
破産法人が破産財団を確保できず、破産手続の中では労働債権が支払われない場合であっても、この未払賃金立替払制度を利用することによって、従業員の賃金のうち一定額を支払ってもらえます。
未払賃金立替払制度では、次の条件を満たす範囲で未払い給料や退職金の立替払いが受けられます。
立替払いを受けることができるのは、従業員が退職した日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払い給料や退職金のうち、未払いになっている給与や退職金額の8割(退職時の年齢により88万円~296万円の範囲内で上限あり)です。なお、賞与や総額2万円未満の支払い、解雇予告手当は立替払いの対象に含まれません。
この未払賃金立替払制度を利用するには、会社が倒産(法律上の倒産だけでなく事実上の倒産を含みます)したなどの一定の要件を満たすことが必要です。
また、未払賃金立替払制度の利用には、倒産した会社で働いていたことを証明するために、タイムカードや賃金台帳などの資料の提出が必要となります。
なお、この未払賃金立替払制度は、解雇から6ヶ月間を経過して破産の申立てがされた場合には利用することができません。そのため会社経営者は、従業員が未払賃金立替払制度を利用できるよう、解雇後は早期に破産の申立てを行うべきであり、また、タイムカードや賃金台帳などの手続に必要となる資料をまとめ、速やかに従業員各人にこれを交付しておくべきです。
雇用保険(失業保険)の手続
従業員は解雇によって収入を失うことになります。そのため、従業員が雇用保険(失業保険)を受け取れるように所定の手続を行うことも会社の重要な義務となります。
会社破産の場合の失業保険の手続は、平常時に従業員が退職した場合と同様です。
事業主である会社は、従業員を解雇した日から10日以内に、解雇された従業員の雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書を作成し、これを解雇通知書の写しとともに、管轄のハローワークに提出する必要があります。
その後、ハローワークから離職票を受け取り、その離職票をそれぞれの従業員に交付します。その後は、従業員が自らハローワークに離職票を提出し、失業保険の受給手続を行うことになります。
なお、破産による解雇は、会社都合の退職ですので、自己都合退職と異なり、受給開始まで3ヶ月間の給付制限がありません。解雇された従業員は、離職票をハローワークに提出し、7日間の待機期間が経過した翌日から失業保険を受給することができます。
社会保険の手続
会社が破産する場合、管轄の年金事務所に適用事業所全喪届と各従業員の資格喪失届を提出することで社会保険の適用事業所廃止の手続を行う必要があります。その際、会社は、従業員から健康保険証を回収し、管轄の年金事務所に資格喪失届とともに返却します。
従業員は、次の就職先が決まっているのであれば、その転職先の社会保険に加入します。その時点で転職先が決まっていない場合には、従業員は破産する会社の社会保険の資格を喪失しますので、従業員自らが国民健康保険・国民年金に切り替える必要があります。なお、健康保険については「任意継続」の手続を取ることで、2年間に限り、従前の健康保険組合に加入することができます。
国民健康保険や国民年金の切替手続は、従業員各人が行う必要があります。国民健康保険については従業員の住所地の市区町村役場において、国民年金については従業員の住所地を管轄する年金事務所で手続を行うことになります。
住民税の手続
会社の従業員の住民税は、通常、特別徴収により給料から天引きし、会社から各従業員の住所地の市区町村に納税しています。
会社が破産する場合、従業員の住民税について特別徴収から普通徴収に切り替える必要があります。具体的には、会社がそれぞれの市区町村役場に対し、給与所得者異動届を提出することになります。
別途、従業員に対しては、普通徴収への切り替えにより、以後、住民税は各自で納付してもらう必要があることを説明する必要があります。
源泉徴収票の交付
源泉徴収とは、従業員の毎月の給与から源泉所得税を差し引くことで、会社が従業員に代わって従業員の税を納付する制度です。
源泉徴収票には、従業員の1年間の収入と納付した所得税額を記載されています。源泉徴収票は、従業員が確定申告を行う場合や再就職先での年末調整をするために必要となるため、会社が破産する場合には、解雇による離職日までの源泉徴収票を作成し、従業員に速やかに交付しなければなりません。
まとめ
ここでは、会社破産する場合に会社の従業員との関係で会社が行うべきこと、という切り口で説明してみました。
会社が破産を行う場合、従業員は解雇しなければならなくなりますが、その他社会保険や納税上の問題、特殊な従業員救済政策の制度上の手続など複雑な手続が必要となってきます。また、それらの事柄を不安に陥っている従業員たちに対して誠実に説明を行っていかなければなりません。
破産は準備がとても大事ですので、是非早めに当事務所にご相談いただければ幸いです。
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