2024/04/22 法人破産

経営者保証に関するガイドラインとは

 経営者保証に関するガイドラインとは、全国銀行協会及び日本商工会議所が策定した「中小企業、経営者、金融機関共通の自主的なルール」のことをいいます。資金調達時や事業承継時におけるルール等を定めています。また、廃業の際に活用する方法も用意されており、注目を集めています。

 「自分が経営している会社を破産させた場合、その保証人になっている私も破産しなければならないのだろうか?」

 このような疑問は経営者であれば当然お考えになることです。ほとんどの経営者の方は会社が負担する債務の保証人になっているためです。経営者保証に関するガイドラインが策定されるまでは、会社が破産をした場合、その多くは無条件に経営者の破産を伴うものであると考えられ、そのような運用がなされていたのが実際でした。

 ところが、廃業時においてこの経営者保証に関するガイドラインを利用することにより、会社が破産を選択してもその経営者は破産をすることなく自宅の維持等をすることが一定の条件で可能になりました。

経営者保証に関するガイドラインと個人破産との違い

(1)経営者保証に関するガイドラインが個人破産とどのように違うのか、その主要なものをまとめると以下のとおりとなります。


経営者保証に関するガイドライン個人破産
対象となる債権者の範囲保証債権を有する債権者、住宅ローンを含むその他の固有の債権者全債権者
債権者の同意の要否全員の同意が必要不要
信用情報登録機関報告・登録されない報告・登録される
保証人の手元に残せる財産自由財産及びインセンティブ資産自由財産

(2)まず、経営者保証に関するガイドラインを廃業時に利用する場合には、保証債権を有する債権者等限られた債権者のみが対象となって債務整理に関する協議をすることとなりますが、個人破産の場合には全債権者が対象となります。また、経営者保証に関するガイドラインは任意の協議による方法ですので、手続に関する債権者全員の同意が必要になりますが、個人破産は債権者の同意が不要であるという特徴があります。

 上記のとおり、経営者保証に関するガイドラインは、これを用いることにより、破産をしないで保証債務の整理ができるほか、信用情報に載らず、再チャレンジしやすい点がメリットといえます。また、自由財産に加え、インセンティブ資産を残すことができるため、自宅を残すことができる点もメリットといえます。インセンティブ資産については後述します。

(3)破産手続は裁判所を通じた手続ですので、全債権者を拘束するうえ、債務者の財産に関する管理処分権は原則として全て破産管財人に帰属することになります。ところが、経営者保証に関するガイドラインは裁判所や破産管財人等が関与することなく、自主的なルールに基づいて債務を整理するという点に大きな違いがあるといってもいいでしょう。

経営者保証に関するガイドラインによって手元に残せる「インセンティブ資産」とは?

 経営者保証に関するガイドラインを用いて保証債務の整理を行う場合、破産をした場合におけるよりも多くの財産を手元に残すことができます。この破産時よりも多く残る財産のことを「インセンティブ資産」と呼んでいます。

 インセンティブ資産には、①一定期間の生計費、②華美でない自宅、③その他資産が含まれますが、一定の上限が設けられています。具体的には、主債務者である会社が現時点で清算した場合、将来(最大3年程度が想定されています)清算した場合よりも回収見込み額が増加する場合に、その増加額を限度としてインセンティブ資産が認められています。その限度において債務者本人の財産を残せることから破産手続よりも再チャレンジがしやすい結果に繋がりやすいといえるでしょう。

経営者保証に関するガイドラインを利用するための要件

(1)経営者保証に関するガイドラインを利用するための要件を整理すると次のとおりになります。

  • 要件①:保証契約の主たる債務者が中小企業であること
  • 要件②:保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること
  • 要件③:主債務者及び保証人が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、財産状況等について適時適切に開示していること
  • 要件④:主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
  • 要件⑤:主債務者が法的整理または準則型私的整理手続を活用していること
    法的整理とは、破産や民事再生等の手続きを指します。また、準則型私的整事業再生ADRや特定調停等の手続きを指します。
  • 要件⑥:対象債権者に経済的合理性が期待できること
    次のⒶとⒷとを計算し、ⒶがⒷを上回る場合に「経済的合理性が期待できる」と判断されます。
    Ⓐ:現時点において清算した場合における主たる債務の回収見込み額と保証債務の弁済計画に基づく回収見込み額の合計金額
    Ⓑ:過去の営業成績等を参考としつつ、清算手続きが遅延した場合の将来時点における主たる債務及び保証債務の回収見込み額の合計金額
     経営者保証ガイドラインにおいては保証人にインセンティブ資産の維持が認められているため、保証債務の回収見込み額だけで判断すると、保証人が破産した場合よりも対象債権者の回収額は減少します(破産においては自由財産の範囲でしか債務者に財産の保有が認められていないため、その分対象債権者の回収額は増加します)。
     そこで、経営者保証に関するガイドラインにおいては、主債務者と保証債務の回収見込額を一体として判断することで、対象債権者の経済的合理性を確保しつつも、保証人にインセンティブ資産を認めることになりました。
  • 要件⑦:保証人に破産法上の免責不許可事由に該当しないこと
     免責不許可事由とは、財産を隠匿する行為や、他の債権者を害する目的等で特定の債権者にのみ弁済をする行為、浪費や賭博を行う行為等、手続において債権者に不利益となる行為を行ったり、不正な手段により手続を行う行為を指します。

(2)上記の各要件を充足するか否かの判断は非常に難しいことから、実際には弁護士等の専門家に相談して確認されることをお勧めいたします。

まとめ

 これまでは会社の破産を選択すると、その経営者も破産を迫られ自宅を維持することが困難と考えられていたのが実際でした。個人再生手続等の選択も考えられますが、同手続は住宅ローンを除いた総債務額が5,000万円を超えないことが求められる等、会社の多額の保証債務を負っている経営者にとっては利用可能性に乏しいものでした。

 そのような間隙を縫うかのように策定されたのが「経営者保証に関するガイドライン」を会社廃業時に用いるスキームです。