医療機関の破産が増加している背景とは?
昨今、医療機関(病院・診療所(クリニック)や、これを経営する医療法人)の倒産件数が増加していることをご存じでしょうか?
日本全体の景気は上昇傾向にある中で、このように医療機関の倒産が増えていることには、以下のような事情があります。
医療業界を取り巻く経営環境の変化
まずは医療業界を取り巻く経営環境の変化があげられます。昨今は、病院・クリニックの増加に伴い、医療機関の競争が激化している上に、後継者不在の問題が各所で顕在化しています。また、いわゆる新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着いてきた中での電気代・人件費の高騰も医療機関の経営に打撃を与えています。
2024年上半期に倒産した病院・診療所の7割程度が、開業後20年を超えた中堅以上の医療機関であったようです。これは、昨今の経営環境の変化に追いつくことができなかったためであると考えられるでしょう。なにがしかの経営対策を取らなければ、経営改善が図れない状況になってきているのです。これが医療機関の廃業を推し進めている要因といえます。
コロナ融資(ゼロゼロ融資)返済
加えて、ゼロゼロ融資の名で知られるコロナ融資の返済が、貸付から3年を迎えていよいよ開始していることも、医療機関の倒産に拍車をかけています。これは医療業界のみならず、他の業界においても問題化しています。
コロナ融資は、実質無利子・無担保の融資であったため、新型コロナウイルス感染症が蔓延する中、多くの医療機関が借入れ申込みをしていたようです。これらの借入れによって得られた金銭の多くは、新型コロナウイルス感染症の影響で集客が激減した期間の運転資金に充てられて無くなっているでしょう。
上記のとおり、経営環境の変化に戸惑う中、ゼロゼロ融資返済によって更に経営状況が悪化する医療機関が増えてきているのです。
医療機関の破産における注意点
それでは、医療機関の破産において注意すべき点についてご説明いたします。
従業員への影響と対応策
まずは、従業員への影響を考慮する必要があります。医療機関は勤務医師・看護師・医療事務従事者など、多くの従業員を抱えますから、倒産による影響が大きくなります。従業員には事前又は事業停止日に破産手続について説明を行い、給与の立替払い制度(労働者健康安全機構という機構が、一定の給与を立て替えて支払ってくれます。)や、保険証の資格喪失届などについての準備を行っておく対応が必要となります。
ちなみに、一般企業では、破産手続をとる上では、破産手続申立て前に従業員を全員解雇することとなります。破産手続を申し立てたのち、裁判所が破産手続開始決定を下しますと、裁判所が選任した破産管財人(弁護士が務めます。)が法人の財産の管理・換価業務を行います。
しかしながら、医療機関が破産した場合には、その専門性から、看護師や事務職員など、財産管理や破産後の各種事務処理を補助するものを1~2名程度、引き続き雇用する必要があることが多いです。いわゆる番頭さんとして当該医療機関の各種事情に精通した職員を引き続き雇用し、破産処理を手伝ってもらうのです。このような協力的な従業員を選出する必要性がある点には注意しなければなりません。
患者への影響と対策
次に、患者への影響も考慮しなければなりません。入院患者にしても、通院患者にしても、滞りなく転院をさせる必要があります。転院に必要な期間をおいてから破産する必要があるといえるでしょう。この際には、場合によっては行政機関や医師会との協議が必要となる場合もありますから、注意が必要です。
診療録(カルテ)の保管について
また、診療録(カルテ)の保管方法も検討しなければなりません。カルテは、医師法24条2項において、診療終了の日から5年間保存しなければなりません。また、カルテ以外の看護記録・手術記録等の各種書類も、3年間保存する必要があります。
これらのカルテ保存義務は、医療機関が破産した場合もなくなることがありません。カルテの保存義務に違反すると刑事罰もありますから、破産手続をとる前に、診療録をどこでどのように保管するか決めておかなければなりません。特に昨今は、個人情報保護法のもと、患者からカルテ開示の申請があればこれに応じる義務を負いますから、開示手続も取ることができる状態にしておく必要があります。この点にも、医療機関ならではの注意を要するといえるでしょう。
病院・診療所の破産手続の流れと必要書類
さて、細かな破産手続はどのように行うのでしょうか。
破産手続は誰が行う
破産手続申立ては、医療機関の保有する財産や債務状況を細かな目録にまとめて裁判所に提出して行います。特に医療機関では、医療器具のリース契約が多いので、リース物品に漏れが生じないように注意をすることが必要です。
また、上述しましたとおり、患者の移動や従業員対応も必要となります。
これらの複雑な準備を行うことから、破産手続は、弁護士に依頼をして行うこととなります。破産手続、特に医療機関の破産手続に精通した法律事務所へのご依頼をご検討いただくこととなるでしょう。
行政への届出のタイミング
また、医療機関は破産手続に際して廃業することとなります。医療機関は事業停止後10日以内に行政機関(保健所)に廃止届出書を提出する義務を負います。なお、医療機関の事業譲渡・病院施設の譲渡が予定されている場合には、廃止届出書ではなく、休止届出書の提出が必要となる点にも注意が必要です。
このように、医療機関としては、事業を停止して患者受入れを止めたのち、直ちに廃止届出書を提出することとなります。
破産手続の概要と基本ステップ
破産手続は、概ね以下のような流れで進みます。
- 破産手続申立ての準備
※ここで、上述したような各種対応をすることとなります。 - 事業停止・従業員の解雇
- 裁判所への破産手続申立書提出
- 裁判所による破産管財人選任・破産手続開始決定
- 破産管財人との面談、各種財産の引渡し
※自動車の鍵・車検証などの引渡しを行います - 破産管財人に適宜協力する
- 医療機関の保有財産を換価・配当し、各種契約関係を解消した上で、
破産手続の終了
これらの手続において、医療機関の代表者は、破産管財人に対し、重要な財産を開示したり、破産手続に協力したりする義務を負います。
病院が破産・倒産を弁護士に相談するメリット
複雑な手続について、専門家の助けを得られる
上述したような複雑な手続について、専門家である弁護士の助力を得られることが最大のメリットです。特に医療機関の倒産・破産の経験がある弁護士であれば、上記の各注意点を考慮した上で、適切な順序・スケジュールを組んで破産手続を進めることが期待できます。
餅は餅屋といいますとおり、法律的な問題についてはご自身で処理するよりも、弁護士に任せてしまうことが有益でしょう。
準備に要する事務手続について外部者にアウトソーシングできる
また、準備に要する事務手続、特に破産手続申立て書類の作成をアウトソーシングできる点も大きな利点です。
医療機関の倒産手続を行ったとしても、代表者の医師としての生活は続きます。余計な事務処理に時間を割くことなく、転職活動・再起に向けた活動をするなど、ご自身の未来に向かった行動をとることができるように、適切なアウトソーシングを利用するべきです。特に医師は時間単価が高い職業ですから、アウトソーシングの利点が充分に活きる職種といえます。
債権者への対応を弁護士に一任できる
一般企業同様に、弁護士に依頼をすることで、債権者対応を弁護士に一任することができる点もメリットとして挙げられます。
債権者からの督促などで疲弊してしまう経営者は多いので、できるだけ早期に弁護士に依頼し、余計なストレス要因をカットするべきです。特に医師の方が債権者対応に苦悩することは、それだけで業務効率を下げてしまうこととなるでしょう。このような結果を防ぐことが有用です。
まとめ
以上のとおり、医療機関の破産時の注意点と手続について概観しました。医療機関は千差万別で、取り扱う科が異なれば、また状況が変わってきますし、入院患者の有無も破産手続に要する準備事項に大きな変動をもたらします。
ぜひ、医療機関の破産についてお考えでこのページをお読みになった方がいらっしゃいましたら、当事務所へのご相談・ご依頼をご検討ください。