介護施設の倒産が増加している背景とは?

 全国の介護事業者・介護施設の倒産件数が、2024年上半期、過去最多となったことをご存じでしょうか? 

 世界経済の潮流から日本国内での景気も上昇傾向にある中で、このように介護施設の倒産が増えている背景は、以下のような事情によります。

介護業界を取り巻く経営環境の変化

 2024年上半期の介護施設の倒産件数のうち、約半数が、訪問介護を行う介護施設であり、3割程度が、デイサービスなどの通所・短期入所を行う介護施設でした。やはり新型コロナウイルス感染症の時代を経験したことで、高齢者が他者と触れて感染するリスクを恐れる方が増えたのか、これらのサービスの需要が減少してきているといえます。

 加えて、昨今の介護従事者不足・光熱費や人件費等のコスト増加も、介護業界には大打撃となっているようです。これらの経営環境の変化に追いつくことができないと、やむを得ず倒産を選択することを迫られてしまうのが、介護業界を取り巻く現状といえます。

コロナ融資(ゼロゼロ融資)返済の影響

 また、近時、コロナ融資(いわゆるゼロゼロ融資)の貸付3年経過により、その返済が開始し始めたことも介護施設の倒産件数増加の一要因となっています。これは、他業種においても同様です。

 コロナ融資は、実質無利子・無担保であったことから、多くの介護施設が借り入れ、この恩恵にあずかっています。しかしながら、この借入金は、まさに新型コロナウイルス感染症によって訪問介護サービス等の需要が下がってしまっていた期間の運転資金に充てられて無くなってしまっている介護施設も多いのではないでしょうか。

 このように、介護業界を取り巻く経営環境の変化に戸惑う事業者が多い中で、コロナ融資の返済により、更に経営状況が悪化して事業継続の体力を失っている介護施設が増えてきているといえます。

介護施設の倒産における注意点

 それでは、介護施設の倒産における注意点を、以下のとおり、ご説明します。

スタッフへの影響と対応策 

 最初に、従業員・スタッフへの影響を考え、対応策を練る必要があります。介護施設には、事務員・介護士など、通常、多数のスタッフがいますから、倒産による影響は計り知れません。スタッフには、事前又は事業停止日に、できるだけ直接、倒産手続の説明を実施し、給料の立替払い制度(労働者健康安全機構が、一定部分の未払給与を会社に立て替えて支払う制度があります。)や、社会保険証の資格喪失届など、退職後の準備をしておくことが必要となります。 

 ちなみに、一般の会社の倒産時には、倒産の申立てをする前に、従業員を全員解雇しておくこととなります。このため、倒産手続中は従業員がいなくなり、裁判所が破産手続開始決定後に選任した破産管財人(通常は、弁護士が選任されます。)が会社資産等の管理・換価を行うこととなります。

 しかしながら、介護施設においては、下記のとおり、入居者の情報管理や、転居先支援・引継ぎなどの専門性を有する業務が残る可能性がありますから、各種事務処理を担当する方を何名か引き続き雇用することもあります。この際にどの方に残っていただくかは、慎重な検討を要するといえます。

入居者・ご家族への影響と対策

 次に、入居者・ご家族への影響についても考慮する必要があります。入居者にせよ通所者にせよ、利用者やそのご家族の方は、滞りなく次の介護施設への引継ぎがなされないと非常に困ってしまうでしょう。このような事態を防ぐためには、地方行政とのやり取りをとることも重要です。

 場合によっては、例えば介護施設について他の介護事業者へ事業譲渡して入居者・通所者が引き続き同じ環境化で生活できるような体制を整えてあげることもあり得る選択肢といえるでしょう。この場合、のちに裁判所から、事業譲渡の価格の正当性に疑義を呈されることのないよう、適正価格を算出することが必要となりますから、必ず、弁護士に事前にご相談ください。

利用者記録の保管について

 また、利用者記録の保管についても検討を要します。介護給付費請求書、介護給付費明細書は5年間、ケア提供関連の利用者記録は介護完結日から2年間(但し、条例によって保管期間を5年間としている地方公共団体もあります。)の保存を義務付けられています。この義務は、介護施設が倒産した場合もなくなりません。

 このため、利用者記録を、誰がどこでどのように保管するのかという点に注意が必要となるのです。特に昨今は、個人情報保護法により、利用者からの利用者記録開示には対応をしなければなりませんから、適時に開示手続をとることができるような保存体制が要求されます。この点も、介護施設ならではの倒産時の注意点といえます。

介護施設の破産手続の流れと注意点

 さて、それでは介護施設の破産手続の流れと注意点についてご説明します。

破産申立ての流れと関係者の役割 

 破産申立ては、基本的な以下のようなステップを辿ります。

  1. 破産手続申立ての準備 ※ここで、上述したような各種対応をすることとなります。
  2. 事業停止・従業員の解雇
  3. 裁判所への破産手続申立書提出
  4. 裁判所による破産管財人選任・破産手続開始決定
  5. 破産管財人との面談、各種財産の引渡し ※自動車の鍵・車検証などの引渡しを行います
  6. 破産管財人に適宜協力する
  7. 介護施設の保有財産を換価・配当し、各種契約関係を解消した上で、破産手続の終了

 これらの手続中、介護施設運営法人・介護事業者の代表者は、裁判所・破産管財人の業務に協力する義務を負います。この協力のためには、上述しましたとおり、現場のことが分かり、かつ、事務処理を行うことのできる従業員が必要となる場合があります。

 破産申立時には、複雑な資料の準備・整理が必要となりますから、基本的に、弁護士がその申立てを代理人として行うこととなります。ぜひ、介護施設の倒産処理に精通した弁護士へのご依頼をお勧めいたします。 

地域の行政や関係機関への適切な連絡方法

 また、介護施設の破産時には、入居者・通所者を適切に他の介護施設へと引き継ぐことが必要となる場合があります。このような場合には、地域の行政(福祉課)や、他の介護施設を運営する関係機関との連絡・協力が不可欠となります。

 この際にも、例えば破産する見込みであることが他の施設を経由して自社の従業員に事前に知られたりすることのないように注意しなければなりません。介護施設にて勤務する介護従事者の業界は狭く、横の繋がりが強い業種といえますから、悪い噂はすぐに広がってしまいます。このため、関係機関への連絡のタイミングや連絡方法については、事前に弁護士に相談してから決めるべきでしょう。

破産手続をスムーズに進めるためのポイント

 このように、実際の破産手続を取る際にはいくつかの注意点があります。いずれの注意点についても、倒産処理に精通した弁護士による助言・アドバイスが必要不可欠といえますから、ぜひ、そういった弁護士へのご依頼をご検討ください。これが、破産手続をスムーズに進めるための最大のポイントといえます。

介護施設の破産・倒産を弁護士に相談するメリット

複雑な手続について、専門家の助けを得ることができる

 上述したとおり、破産手続は複雑であり、かつ、配慮を要する事項が多岐にわたります。介護施設の破産の経験がある弁護士であれば、上記の各注意点に目を向けながら、あなたに最適な方法・順序・スケジュールを整理してくれるでしょう。

事業譲渡等の専門的な対応により、入居者・通所者の利益を守る可能性が高まる

 また、事業の最後まで、入居者・通所者の利益を守ることも介護施設にとっては重要な業務です。この点については、事業譲渡や、行政期間と連携した上での他施設への引継ぎなど、入居者・通所者を守る対応を取るためには、専門家である弁護士の力添えが必要不可欠です。

債権者への対応を弁護士に一任できる

 更に、一般企業と同じく、弁護士に依頼することで、債権者への対応を弁護士に一任することができます。

 債権者からの請求・督促で疲れ果ててしまう経営者は数多くおります。特に介護施設は通常業務が相当ハードなため、これに加えて債権者対応をすることはもはや不可能でしょう。余計なストレスをカットして苦悩を減らすためにも、弁護士への早期のご依頼をご検討ください。

まとめ 

 以上のとおり、介護施設の倒産時の注意点と手続についてご説明しました。ぜひ、介護施設の倒産についてお考えでこのページをお読みになった方がいらっしゃいましたら、当事務所へのご相談・ご依頼をご検討ください。