借金・資金繰りにお悩みの方は、一度は「破産手続」についてお考えになったことがあるのではないでしょうか?

 破産したら会社はどうなるのか。破産したら会社代表者は契約ができなくなるのか。など、多くの疑問があるかと思います。この記事では、破産手続開始決定というものについてご説明していきます。

破産手続開始決定(破産宣告)とは

 破産手続開始決定とは、裁判所に対して破産手続を申し立てた際に、裁判所が支払不能又は債務超過であると認めた場合に下す、破産手続を開始する決定を指します。ちなみに、「支払不能」とは、分かりやすくいえば、会社の財産や収支状況からして、借金を返済することができない状態を指します。

 破産手続開始決定を受けることで、裁判所による破産手続が始まり、会社代表者自身にも、破産者として裁判所の手続に協力する義務が生じます。

 破産手続開始決定が出るまでの流れは、以下のようなものとなります。

破産手続開始決定までの流れ

破産について弁護士に依頼

※会社代表者ご自身でも破産手続を申し立てることは可能ですが、債権者からの取り立ては続きますし、弁護士によるチェックがないために裁判所からも厳しく書面を確認されるため、全くお勧めできません。また、裁判所に納めるべき予納金の額も弁護士が代理人として申し立てた方が低廉になる傾向にあります。

破産手続申立てのための準備

ア 各債権者への通知・債権額調査

 各債権者に弁護士から受任通知を出し、債権額がいくらであるのか、回答を待ちます。弁護士からの通知を出して、概ね1~2か月以内には回答が出揃うこととなります。

 ちなみに、各債権者に弁護士から受任通知を出した場合、債権者から会社・代表者宛ての督促・連絡はやみます。この点が、弁護士が介入する最も大きな意味といえます。

イ 家計簿の作成

 地域によって差がありますが、会社代表者の方の家計簿を2か月分程度提出する必要があることが多いです。借金やクレジットカードに頼らずとも現金払いによる生活ができることを裁判所に示します。

ウ 裁判所への提出書類の作成・提出資料の取寄せ

 裁判所への提出書類等の作成・取寄せにも、時間を要する場合があります。会社・企業が破産する場合には、会社保有財産を一覧化したり、リース物品の特定をしたり、多くの作業を要することとなります。

エ 雇用契約等の契約の整理

 また、従業員の解雇など、各種契約を整理しておく必要があります。

オ 予納金の準備

 裁判所に破産手続を申し立てる場合、裁判所に対し、官報公告費、後述する破産管財人の費用などを予め納めることとなります。

破産手続申立書の提出⇒裁判官との面談

※新型コロナウイルス感染症の流行以降、裁判官との面談は電話のみで済まされることも増えてきました。地域によっては、裁判官面談がない場合もあります。

 ちなみに、2005年(平成17年)に破産法が改正される前は、破産手続開始決定ではなく、「破産宣告」という名称が用いられていましたが、「宣告」という言葉が負のイメージを強く持つということから、現在は「破産手続開始決定」という用語が用いられています。

破産手続開始決定の条件

 破産手続開始決定が下されるためには、上述の支払不能又は債務超過であることに加えて、以下の条件も必要となります。

破産手続申立てが適法であること

 破産手続を、破産する者と無関係の者が申し立てていたり、破産会社の代表者自身が認知症等で破産手続を理解していなかったりすると、破産手続申立てが不適法なものとされて却下されます。

破産障害事由がないこと

 また、①予納金を納められない、②破産手続申立てが権利濫用に該当する、③破産以外の各種倒産手続(民事再生手続、会社更生手続)が申し立てられている、といったことがあると、破産手続の障害があるとして、破産手続申立てが却下されます。

 ちなみに、権利濫用となる場合とは、例えば申立人が破産手続を行う意思がなかったり、債権者が債務者に対する嫌がらせ目的で破産手続を申し立てることなどを指しますので、かなり限定的な場合となります。

破産手続開始決定の効果

 上記のように破産手続開始決定が下されると、あなたについて、様々な効果が生じます。

官報公告がなされる

 聞きなじみがないかもしれませんが、国が毎日発刊している広報紙として、「官報」というものがあります。国が新法律等の情報などを掲載する新聞のようなものです。

 破産手続開始決定が下されると、会社の名称・住所、会社に関して破産手続開始決定が下されたことなどが、官報に掲載されます。会社代表者も一緒に破産する場合には、会社代表者の氏名・住所も官報に掲載されます。

債権者によって訴訟を提起されたり、強制執行を受けたりしている場合、これらの手続が中止される

 また、未払期間が長かったりすると、債権者によって訴訟を提起されたり預貯金の差押えなどの強制執行を受けたりすることがあります。

 破産手続開始決定が下されると、破産者の生活再建のため、このような訴訟・強制執行手続が中止されますので、ご安心ください。特に、会社の連帯保証人になっている代表者が個人的資産について差押え等を受けている方は、早期に破産の準備を進めるべきといえるでしょう。

 但し、破産手続開始決定前になされた国税滞納処分は効力を失わないので、税金類の滞納には、充分にご注意ください。破産手続開始決定前に国税滞納処分によって各財産を押さえられてしまい、破産のために要する最低限の資金さえ失ってしまう会社は多いですから、そのようなことのないように、早期のご相談をご検討ください。

破産管財人が選任される場合がある

 加えて、法人が破産手続申立てをした場合、裁判所が「破産管財人」に弁護士を選任し、財産管理を任せます。破産管財人は、破産者が勝手に財産を処分したり、いずれかの債権者にのみ借金を返したりしないよう財産管理をするとともに、破産者に隠れた財産がないかなどを調査します。

 破産手続開始決定と共に破産管財人が選任された場合、破産手続が終了するまで破産者宛ての郵便物が破産管財人に転送されることとなります。これは、郵便物から、会社について保険契約などの隠れた財産があったり、会社代表者によるパチンコなどのギャンブル経験が分かったりするためです。

 なお、破産管財人が選任された場合、財産の処分管理権限が破産管財人に移るため、勝手に財産を処分できなくなりますからご注意ください。代表者個人の方が破産する場合には、「自由財産」と呼ばれる部分については引き続き、自由に管理・処分をすることができます。どのような財産が自由財産に当たりうるのかは、弁護士にご確認ください。

資格・職業によっては、一定の制限がかされる

 破産手続開始決定により、代表者個人の資格・職業の制限がかされることがあります。

 例えば、弁護士・公認会計士・税理士・宅地建物取引士等の士業の資格、警備員・保険募集人等の金銭管理をする可能性のある職業などが制限されます。これらの制限は、破産手続終了後には解除されます(復権といいます。)このため、代表者個人が破産した場合、破産手続が終了するまで、警備業には就けないなどの職業制限がありますから、どのような職業に転職するのかは、ぜひ事前に検討しておきましょう。

 以上のように、破産手続開始決定によって様々な効果が生じます。一点注意しなければならないのは、破産手続開始決定によって、代表者個人について、ちまたで噂されるような「契約できなくなる。」、「家を借りられなくなる。」といった効果は生じません。破産手続に関してご心配な点がありましたら、早期に弁護士にご相談をいただければと思います。

破産手続開始決定を受けてからの流れ

 破産手続開始決定を受けてからは、以下のように手続が流れます。

  1. 破産手続開始決定・破産管財人の選任
  2. 破産管財人との早期の面談
  3. 債権者集会(概ね、破産手続開始決定から3か月程度あと)
    ※裁判所において、裁判所と債権者向けに、破産管財人の活動内容の報告がされます。破産管財人の業務が継続する限り、債権者集会は続きます。
  4. (破産者に財産がある場合には、配当手続)
  5. 破産手続終結決定
  6. (代表者個人も破産している場合には、免責手続へ移行⇒免責許可決定又は免責不許可決定)
    ※破産者が負う借金返済義務を免除しても良いか裁判所が判断する手続を「免責手続」といいます。

 このように、破産手続開始決定後も、破産手続が終了するまでは一定期間を要しますから、申立て後も弁護士と協力の上、手続を最後まで進めていくこととなります。

まとめ

 以上のとおり、破産手続開始決定についてご説明しました。法人の資金繰り・借金等でお悩みの方がいらっしゃいましたら、ぜひ、当事務所に早期にご相談ください。